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札幌地方裁判所 平成4年(行ク)3号 判決

北海道芦別市上芦別町一〇五番地

申立人

高橋脩

右訴訟代理人弁護士

笹森学

亀田成春

北海道滝川市大町一丁目八番地

相手方

滝川税務署長 柴﨑澄哉

右指定代理人

栂村明剛

堀千紘

右当事者間の平成元年(行ウ)第一三号所得税青色申告承認取消決定等取消請求事件について、申立人から文書提出命令の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件申立をいずれも却下する。

理由

一  申立人の申立の趣旨及び理由は、別紙一ないし三記載のとおりである。

二  そこで、まず、申立人は、いわゆる類似同業者の所得税青色申告書添付の決算書一切(以下「青色申告決算書」という。)に記載されている申告者及び税理士の住所、氏名、所在地、従業員の氏名等の固有名詞上に紙を貼って読めなくしたもの、又は右の固有名詞等を削除したものの写しが、民訴法三一二条一号所定の引用文書に該当する旨主張する。

一般に、当事者の一方が訴訟においてその主張を明確にするため、文書の存在について具体的かつ自発的に言及しその存在及び内容を積極的に引用した文書も民訴法三一二条一号所定の引用文書に当たると解するのが相当である。

これを本案事件(平成元年(行ウ)第一三号)についてみると、同事件は、相手方が申立人の昭和五九年ないし昭和六一年分の事業所得金額を算出するに際し、申立人の営む運送業及び飲食店業の所得金額を実額で把握できないとして、申立人の運送業における取引先の反面調査により明らかとなった総収入金額及び申立人が申告した飲食店業の売上原価額を基礎とし、申立人が事業所を有する滝川税務署管内において青色申告をしている同業者を抽出して、運送業に関してはその総収入に対する必要経費の割合の平均値によって、飲食店業に関しては総収入に対する売上原価の割合及び総収入に対する必要経費の割合の平均値によって、それぞれ申立人の所得金額を算出した事案である。そして、相手方は、本案事件において、右同業者の該当年分の総収入金額及び必要経費額の数値を相手方の平成二年六月一四日付け準備書面添付の別表3及び4に表示し、相手方の同年一〇月一八日付け準備書面において、右類似同業者の総収入金額及び必要経費の額を各同業者の確定申告書の添付資料により把握したものである旨主張している。

したがって、申立人が本件において提出を求めている相手方の同年六月一四日付け準備書面別表3及び4に表示されている同業者の該当年分の青色申告決算書及びその写しは、引用文書に当たる(又は準ずるもの)というべきである。

三  次に、申立人は、青色申告決算書又はその写しの記載中、申告者の特定につながる固有名詞を付箋等で隠し、又は削除するならば、申告者の営業、財産等に関する秘密を漏泄するおそれはないと主張する。

しかし、申立人が提出を求める類似同業者の青色申告決算書及びその写しは、申立人も自認するように、いずれも売上、売上原価、人件費、所得金額、資産負債の内容等、納税者の営業上の秘密及びプライバシーに関する事項が多数記載されたものであるから、右の各決算書が一部分を付箋等で判読できないようにされていても、不特定多数の者に開示されることなどによって、その記載内容、筆跡等から申告者が特定されるおそれがある。特に、滝川税務署管轄区域内の五市三町一村には、同業者数がさほど多くはないと推認されるから、右の青色申告決算書又はその写しの記載内容により申告者を特定しうる可能性が高いというべきである。

したがって、相手方が右類似同業者の各青色申告決算書及びその写しを提出することとなれば、申告者の営業、財産等に関する秘密を漏泄する結果を招き、国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条による守秘義務に違背するおそれがあるから、相手方は、右青色申告決算書及びその写しの提出義務を免れると解するのが相当である。

さらに、申立人は、右類似同業者の青色申告決算書及びその写しの提出なくして、相手方主張の推計課税の根拠となる「類似業者」として抽出された業者が類似同業者であるか否かについて反論又は反証をなしえないから、相手方が守秘義務を理由として右の青色申告決算書又とその写しの提出義務を免れることはないと主張する。

しかし、本案事件において、右の点が重要な争点となっていて、相手方が証拠として提出している課税事績報告書のみによっては、同報告書に抽出されたいわゆる類似同業者が申立人の類似の業者であることを証明するには必ずしも充分とはいえないこともあろうし、また、申立人は、自己の所得等の実額又は自己に個別的な特殊事情を主張立証するなどの方法により推計の合理性を争うこともできる。したがって、相手方から右の青色申告決算書及びその写しの提供がないからといって、当事者間の公平を著しく害する不当な結果を招来するとはいえない。申立人の右主張は採用しえない。

三  以上によれば、本件申立は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないので、これを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大出晃之 裁判官 松田享 裁判官 湯川浩昭)

(別紙一)

平成元年(行ウ)第一三号 青色申告承認取消決定等取消請求事件

文書提出命令の申立書

申立人(原告) 高橋脩

相手方(被告) 滝川税務署長

一九九二年四月一六日

右原告代理人弁護士 笹森学

同 亀田成春

札幌地方裁判所民事第三部 御中

第一 申立の趣旨

(主位的に)

一 相手方(被告)は、本件訴訟における推計課税のために抽出した同業者中平成二年六月一四日付相手方(被告)準備書面別表3に表示する滝川税務署管内のAないしK、同別表4に表示するAないしGについての各昭和五九年分ないし昭和六一年分の青色申告決算書(青色申告書添付の決算書一切。但し、申告者、税理士の住所・氏名・所在地・従業員の氏名等の固有名詞部分に目隠しをしたもの)を提出せよ。

(予備的に)

二 相手方(被告)は、本件訴訟における推計課税のために抽出した同業者中平成二年六月一四日付相手方(被告)準備書面別表3に表示する滝川税務署管内のAないしK、同別表4に表示するAないしGについての各昭和五九年分ないし昭和六一年分の青色申告決算書(青色申告書添付の決算書一切)の写(申告者、税理士の住所・氏名・所在地・従業員の氏名等の固有名詞部分を削除したもの)を提出せよ。

第二 申立の理由

一 証すべき事実

原告の運送業及び飲食業が、被告が平成二年六月一四日付準備書面別表3(運送業)及び同4(飲食業)に表示するAないしK(別表3)及びAないしG(別表4)の各業者と、その従業員の数、人件費、専従者、償却資産等の営業規模、営業期間、営業時間、営業方法等の業態が異なること。

二 文書の表示及び文書の趣旨

1 本件訴訟における推計課税のために抽出した同業者中平成二年六月一四日付相手方(被告)準備書面別表3に表示する滝川税務署管内のAないしK、同別表4に表示するAないしGの各業者についての各昭和五九年分ないし昭和六一年分の青色申告決算書(青色申告書添付の決算書一切。但し、申告者、税理士の住所・氏名・所在地・従業員の氏名等の固有名詞部分に目隠しをしたもの)。

2 仮に右文書の提出が認められない場合には、本件訴訟における推計課税のために抽出した同業者中平成二年六月一四日付相手方(被告)準備書面別表3に表示する滝川税務署管内のAないしK、同別表4に表示するAないしGについての各昭和五九年分ないし昭和六一年分の青色申告決算書(青色申告書添付の決算書一切)の写(申告者、税理士の住所・氏名・所在地・従業員の氏名等の固有名詞部を削除したもの)。

三 文書の所持者

被告

四 文書提出義務の原因

民事訴訟法第三一二条第一号(被告が推計課税の合理性を主張するにあたり、その基礎資料として引用したもの)。

以上

(別紙二)

平成元年(行ウ)第一三号 青色申告承認取消決定等取消請求事件

意見書

原告 高橋脩

被告 滝川税務署長

原告の文書提出命令の申立に関し、原告は左記のとおり意見を述べる。

一九九二年四月一六日

右原告代理人弁護士 笹森学

同 亀田成春

札幌地方裁判所民事第三部 御中

第一 青色申告決算書の証拠としての必要性

一 本件は、被告が原告の昭和五九年から同六三年分の所得税について昭和六三年三月四日付でなした各更正及び過少申告加算税賦課決定の取消等を求めているものであるが、右各更正等決定においてなした推計課税の「推計」が合理的であるか否かが争点となるものである。

被告がなした「推計の方法」は、いわゆる同業者比率、当該納税者と同一業種で、業態、規模、立地条件等において個別類似性の認められる同業者を抽出して、その必要経費率、一定の売上原価当たりの売上金額、売上原価率等の平均値を算出する方法である。

右同業者比率の合理性についての最も重要な争点は、原告と、被告が引用する各業者の個別類似性であることは論を待たない。

二 ところで、被告は、同業者を抽出するにあたり、右業者は「青色申告の承認を受けている者で、滝川税務署管内に事業所を有する者である」(被告準備面二)ことをその基準の一つとし、抽出された各業者の事業所得を算出するについては「各同業者の確定申告書の添付資料により把握し」(被告釈明書一)、かかる被告の抽出基準およびそれに沿う抽出については、被告の恣意が介在する余地はなく、公平妥当なものであるため、合理的なものであると主張する。

しかし被告の抽出基準及びその方法が公平妥当であったとしても、それゆえ推計が合理的なものであると結論することはできない。なぜなら、推計が合理的であるか否かについては、被告が抽出した各業者がその営業規模、業態等において客観的に原告と個別類似性を有するか否かによるからである。

そして、右個別類似性を判断するにあたっては、被告が本件推計の基礎とした事業所得について、その重要な資料とした各業者の青色申告書添付の決算書の内容が最も重要な証拠となるものである(乙第二一号証参照。これによれば対象者の選別には候補者の青色決算報告書を網羅的に点検したことは当然であり、「作成要領」には「損益計算書」を引用することと明記されている)。すなわち、「被告がその重要な一部を引用している本件青色申告決算書に記載されている従業員数、経費の概要、月別売上金額の推移等が重要な意味を持つ場合が少なくないと考えられること、また推計の基礎となる同業者の所得金額等の正確性についても青色申告決算書が最も的確な証明資料であることなどを考慮すると、その証拠としての必要性は高い」というべきである(大阪地裁昭和六一年五月二八日決定判時一二〇九号一六頁以下)。

特に本件においては、更正決定の対象となった期間が、原告が飲食店の営業を開始してから二年間に過ぎないことから、営業開始年度の経費率及びその後の減価償却費の推移については、特別の考慮を払う必要があるが、被告は本件推計課税にあたりこの点について考慮していない。このことは、原告と各業者との個別類似性を判断するにあたって重要な要素となり得ることは明らかであり、これらを判断するについても、各業者の青色申告決算書の証拠としての必要性が認められるのである。

第二 被告の守秘義務について

本件において、被告が類似同業者として抽出した各業者の青色申告決算書には個人の秘密に属する所得金額、資産負債等の内容が記載されていることから、被告の公務員として守秘義務が問題となる。

しかし、青色申告書の記載部分中、申告者の住所、氏名、電話番号、事業所の名称、所在地、従業員の氏名等納税者の特定につながる固有名詞をすべて付箋等で隠すならば、納税者の営業、財産等に関する秘密を漏泄するおそれはないから、右守秘義務違反が問題になることはない。

そして、何よりも本件と同様青色申告決算書の提出が問題となった訴訟においては、従前、まさしく右のような措置が採られていたことが明らかであり、これにより何らの問題も生じていなかったものである(但し、被告は問題があったというであろう。その実質は、自己の都合のいい立証活動に対する反論・批判があり得たということに過ぎず、専ら被告の利益のみからの評価でしかない)。

青色申告決算書が推計の合理性を判断する上で最も需要な証拠であることを考慮し、当事者の公平を担保をするためには、右のような措置を採った上で提出することが必要である(但し原告は、右の措置を採ること自体が原告の裁判を受ける権利を侵害すると考えている)。

以上

(別紙三)

札幌地方裁判所平成元年(行ウ)第一三号

原告 高橋脩

被告 滝川税務署

一九九二年(平成四年)七月二三日

右原告代理人弁護士 笹森学

右同 亀田成春

札幌地方裁判所民事第三部 御中

意見書

原告は、被告の平成四年六年八月付意見書に対し、次のとおり意見を述べる。

一、被告の意見は、第一に、原告の主位的申立てである類似業者の昭和五九年分ないし昭和六一年分の各所得税青色申告決算書(以下「本件決算書」という)の原本(但し、申告者、税理士の住所・氏名・所在地・従業員の氏名等の固有名詞部分に目隠しをしたもの)については、民事訴訟法三一二条一号の「引用文書」に該当しないこと、第二に、仮に本件決算書が「引用文書」に当たるとしても、民事訴訟法二七二条、同二八一条一項一号等の規定の類進適用によって、右文書の提出義務が免れること、第三に、本件決算書の写しの提出については、右写しは文書提出命令の対象となる「文書」には当たらないことを理由として、原告の文書命令の申立てはいずれも却下すべきものとする。しかし、被告の右各主張は、法が文書提出命令を義務付けた趣旨に反し、かつ、原告の裁判を受ける権利を侵害するものであっていずれも失当である。

二、本件決算書の原本が「引用文書」に当たらないとの主張について

民事訴訟法三一二条一号が、当事者が引用した文書についてその当事者に提出義務を課した趣旨は、当該文書を所持する当事者が、裁判所に対し、その文書を提出することなく、その存在及び内容を積極的に申立てることにより、自己の主張が真実であるとの心証を一方的に形成させる危険を避け、当時者間の公平をはかって、その文書を開示し、相手方の批判にさらすことにより、訴訟における攻撃防御権ひいては裁判を受ける権利を保護しようというものである。

右趣旨に照らすならば、同条同号所定の「引用文書」とは、当事者の一方が、訴訟において、立証それ自体のためにする場合だけで限られず、その主張を明確にするために、文書の存在・内容を積極的に引用した場合における当該文書をも意味するものと解するべきである。

本件については、被告は、原告との類似業者を抽出するにあたり、右業者は「青色申告の承認を受けた者で、滝川税務署管内に事業所を有する者である」(被告準備書面二)ことをその抽出基準の一つとし、抽出された各業者の事業所得の算出については、「各同業者の確定申告書の添付資料より把握し」(被告釈明書一)たものであり、かかる被告の抽出基準およびそれにそう抽出については、被告の恣意が介在する余地はなく公平妥当なものであるため、合理的なものであると主張している(被告準備書面二)。そして右主張に対応する証拠として「税務訴訟に関する資料の作成及び報告について」と題する札幌国税局長作成に被告宛通達書及びそれに対する被告作成の「課税事績報告書」が提出されているが、右報告書に記載されている類似業者の昭和五九年なしい同六一年分の売上金額及び必要経費全額については、本件決算書に記載された該当金額を単に移記して作成されたものであることは、右通達書の作成要領が「損益計算書等を基に次により作成する」とされているところから明らかである。したがって、被告は、本訴訟において、本件決算書それ自体を証拠をして引用してはいないものの、本訴訟において、本件決算書の存在に言及し、かつその記載内容中の核心部分を明らかにしてその主張を構成し、立証の手段としていることは明らかである。被告のこのような主張、立証は、被告が自ら選択して、自発的、積極的に行っているものというべきであり、本件決算書は、民事訴訟法三一二条一号にいう「引用文書」にあたるというべきである。このことは、被告が、本件決算書を基に類似業者の所得金額等を主張していなかったとすれば、それのみで本件推計課税の合理性は認められないことからも明らかである。

三、守秘義務による提出義務の免除について

被告は、本件決算書については、民事訴訟法二七二条、同二八一条一項一号等の規定が類推適用され、本件決算書の文書所持者である被告は、国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条の規定によって守秘義務を負っており、右各文書の提出義務を免れると主張する。

原告は、民事訴訟法第三一二条一号及び原告の裁判を受ける権利の保障の趣旨に照らし、被告は、本件決算書の提出義務を免れえないものと考えるものであるが、仮に右文書の原本についての提出義務が守秘義務を理由として免れえたもの、原告が主位的に申立てている本件各文書の記載部分中、「申告者、税理士の住所・氏名・所在地、従業員の氏名等の固有名詞部分に目隠しをしたもの」については、守秘義務を理由としてその提出を免れないものと解すべきである。

けだし、民事訴訟方第三一二条一号は、当事者の一方が、その文書自体を提出することなく、その存在及び内容を積極的に申し立てることにより、自己の主張が真実であるとの心証を一方的に形成させようとする危険を避け、当事者間の訴訟における公平を図ろうとする趣旨であること、右趣旨は結局のところ、国民の「裁判を受ける権利」を実質的に保障する意図にあることは明らかであるところから、守秘義務の問題も、このような裁判を受ける権利の核心をなす当事者の防御権と守秘義務をいかにして調和させるかとの観点から検討しなければならないからである。

本件のように、推計課税の合理性が中心的争点になっている訴訟において、被告が引用している本件決算書に記載されている従業員数、経費の概要、月別売上げ金額の推移、減価償却の内容及び推移等が、類似業者であるかの判断において最も基本的な証明資料となること、そして被告が右各文書を基に類似業者を選定し、右文書の正確性を担保として、「同業者率」の合理性を主張立証している本件においては、右各文書の提出なくして、被告の推計課税の合理性の立証は尽くされているものとは到底言えないし、かつ、右各文書の分析なくしては、原告は、被告主張の推計課税の根拠となる「類似業者」に対する反論あるいは反論をなしえないことは明らかである。もし、右各文書の提出なく、被告の主張立証が尽くされるとするならば、原告はいわば手足をもがれた状態で訴訟を追行せざるを得ない状況に置かれるのである。

これに対し、被告が主位的に求めているように納税者の特定につながる固有名詞をすべて隠して本件決算書を提出することについては、これを提出することにより、納税者の営業、財産等に関する秘密を漏洩するおそれはないというべきであり、守秘義務違反の問題は起こらないというべきである。

以上の理由から、被告の守秘義務を理由としての提出義務の免除の主張は失当である。

四、本件決算書写しの提出について

被告は、右のような写しは、「現存しない文書」であって、このような現存しない文書を作成して提出することを命じることは文書提出命令の制度には含まれないことを理由に、原告の予備的申立てを却下すべきと主張している。

しかし、被告の右主張は極めて形式的論理であり到底是認し得ないものである。既に述べたとおり、本件の問題の核心は、民事訴訟法三一二条一号の趣旨である公平な訴訟及び当事者の防御権(「裁判を受ける権利」)と守秘義務とを実質的にどう調和させるかである。被告は、本件決算書を基に本件推計課税の合理性を主張立証しようとしている。他方、原告は、右被告の主張立証に対する反論及び反証のためには、本件決算書の提出が必要であり、これの提出なくしては原告の防御権は保障されず、裁判の公平は保たれない。もし、被告に対して、本件決算書の提出を免除するならば、ひるがえって、被告の本件決算書を基にした本件推計課税の合理性の主張立証を認めるべきでない。それが、裁判の公平たる所以である。被告の守秘義務を理由に本件各文書の提出は免除し、他方、被告の本件各文書の基にした合理性の主張立証を許すことには極めてアンフェアーな態度であると言わねばならない。

したがって、被告に、本件各文書の写しの提出を求めることは、民事訴訟法三一二条一号の趣旨である公平な訴訟に合致するものであって、文書提出命令の制度に含まれているものというべきである。

また、守秘義務との関係においても、三で述べたことが妥当するものであり、本件各文書の写しの提出が守秘義務に反しないことは明らかである。

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